あ行

あわびのし
 鮑のし

腹が減って「おまんまが食べたい」と甚兵衛さん。ところが、 御足(おあし)が切れてお米も何もみんな切れている。おかみさんに「近所で五十銭借りて魚屋行って尾頭付きを買って帰ってきたら口上を覚えて、地主の婚礼に 尾頭付きを前に 口上言うとお返しに壱円(いちえん)くれるから、それで五十銭返して残った五十銭でおまんま買って食べるんだよ」と言いつけられた甚兵衛さん。とはいえ五十銭では鮑しか買うことができず、これを持って行くと「 磯の鮑の片思い 」といって婚礼に片貝とは縁起が悪いと追い返されてしまう。困ってさまよっていると、頭(かしら)から“ 熨斗の根本の鮑”という話を仕込んだ啖呵(たんか)を教わり逆襲に…?

市販されているものではCD以外にもポニーキャニオンから山藤章二のラクゴニメ(9)古今亭志ん生(他に饅頭こわいを収録)PCVE-11574というビデオが出ています。お楽しみください。

御足:

おかね。足がはえたように、すぐなくなることから。「切れる」は、すっかりなくなる。

尾頭付き(おかしらつき):

尾と頭のついたままの魚。慶事での料理に用いる。

口上(こうじょう):

口で言う、一定の形式にしたがったあいさつ。

磯の鮑の片思い:

アワビは二枚貝の片側だけのように見えるところから自分が慕っているだけで、相手にはその気のない恋をいう。

熨斗(のし):

いまでは熨斗紙が用いられるが、もとは「のしあわび」を包んだ形に色紙を折ったものを贈物に添えた。「のしあわび」は鮑の肉を薄くはぎ、長く伸ばして干したもの。古くは神前に供えたが、のちにはひろく祝儀にも用いる。

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うしほめ
 牛ほめ

与太郎が、お父ッつァんに呼ばれて、佐兵衛(さへえ)叔父さんの 普請(ふしん)を褒(ほ)めに行って来いと言われる。「家は総体檜造(そうたいひのきづく)り、天井は薩摩の鶉木理(うずらもく)、左右の壁は砂摺(すなず)りでござい、畳は備後表(びんご)の五分縁(ごぶべり)でござい。お床間(とこ)は結構ですな、お軸も結構ですな、あれは唐画の茄子(なす)でございますな、“売る人もまだ味知らぬ初茄子(はつなすび)”これは其角(きかく)の発句(ほっく)でござい〔去来(きょらい)の句とする演者も〕。庭は総体御影石造(みかげづく)りで」と、これだけのことを言わして利口になったと感心してもらおうというわけ。さらに台所(だいどこ)の柱に節穴(ふしあな)がある。「叔父さん、この穴をそう気にすることはありません。この穴へ 秋葉様(あきばさま)のお札(ふだ)をお貼(は)んなさい。節穴が隠れまして、第一(だいち)火の用心がよろしうございます」そして「ああ・・・叔父さん、いい牛ですね。 天角地眼(てんかくちがん)、一黒鹿頭(いちこくろくとう)、耳小歯違(じしょうはちごう)でござます」 さあ、与太郎のことですから、うまくいくかどうか。なにしろ「左右の壁は・・・」を「佐兵衛の嬶(かか)ァは 引きずりで」なんて言いかねませんから。 与太郎ものの代表といったところでしょうが、飯島友治編『古典落語』筑摩書房刊(第二期第四巻)によると、

他の与太郎噺では、大家とか叔父とかが出てきて与太郎の世話をし、面倒をみることが多いが、この『牛ほめ』では、親が自分の馬鹿息子を立てようといろいろ心遣いしている。・・・世間に対し少しでもよく見せたいという親心、そんな親の欲目をからませている点に、他の与太郎ものとの違いがある。「なにを?」「うン」「この節穴ィ」と区切り区切り感嘆の間をおきながら話す、この呼吸、“間”が非常に難しい。そしてこうしたなにげない箇所の出来具合が、噺全体の調子を決めてしまうのである。与太郎のトンチンカンな返事のおかしさも、こうした背景となる描写の細やかな演出によって人情の機微に通じた深みのある笑いとなるのだが、残念ながらこうした箇所に意を用いる噺家も少なくなったようである。

などと解説に述べられていますけど・・・、まあお楽しみくださいと言いたいんですが、寄席などではよく聞かれるわりに市販のものが見当たらなくて。

普請:

家をたてたり、なおしたりすること。

秋葉様:

火伏せ〔防火〕の神様。余談ながら、秋葉原は、幕末近くに原が焼け、その跡に小さな秋葉様を祀ったところから秋葉ッ原と称したことによるという。

天角地眼・・・:

荷車を引いたり田仕事の出来る強い牛の条件。後半は一石六斗二升八合の語呂合わせ。

引きずり:

きれいな着物を着ているだけで、はたらかない女を悪く言うことば。

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 おばけながや
 お化け長屋

家主の 因業(いんごう)なのに怒った 店子(たなこ)たちが、空き店(だな)にいつまでも借り手がつかないようにしてやろうと申し合わせ、古狸(ふるだぬき)の杢兵衛(もくべえ)と呼ばれる最 古参の店子が 差配(さはい)と称して借り手と応対することに。いいことずくめの物件なのに、 敷金はいらないし、家賃も払いたかったら払えばいいと話し、借り手が疑念を抱いたところへ、器量よしのやもめが住んでいたが泥棒に惨殺され、その幽霊が出るという作り話でこわがらせ、まず一人目は成功。今度は威勢のいい借り手が飛び込んできた。なんとその男!条件がよすぎるのはお化けか幽霊でも出るのだろう、それくらいは我慢するから、すぐに越してくると言う。怪談話をしてもこわがらないどころか、逆に杢兵衛がさんざんいじりまわされる。長編なので、たいがいこの辺で切るんですが、まだ先があります。 この越してきた威勢のいい男が湯へ行った留守に怪談話通りの仕込みを行う連中があらわれる。まんまとはまって湯から帰って来た男が驚いて逃げ去ると、喜んだ連中はもっとおどかしてやろうと、あんまを呼び込み布団に入れて手足に一人ずつつながって、大入道が寝ている趣向をととのえる。親方のところに逃げ込んだ男の話を聞いて、その親方が長屋にやって来る。一同は逃げ去り、残ったあんまがいいつけのとおり「ももんがあ!」とすごむが、親方は少しも驚かず、「あんまだけを置き去りに逃げるとは、 尻腰(しっこし)のねえ野郎どもだ」「へえ、腰と足は逃げてしまいました」
市販ものではNHK落語名人選79三代目三遊亭金馬~五代目古今亭志ん生POCN-1119にリレー落語が収録されていますので、お楽しみください。

因業:

頑固で思いやりのないこと。

店子:

「借家人(しゃくやにん)」の古風な言い方。

古参:

ずっと以前からその職や地位に就いていること。

差配:

所有主の代わりに貸地・貸家などの管理をする人。

敷金:

貸家・貸間を借りるとき、家主にあずける保証金。

尻腰がない:

だらしがない。「尻腰」は意地や根気。

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親子酒

お酒が好きな親子が登場。
息子の将来を思い、酒で 間違いを起こすようなことがあってはと、親子で禁酒の約束をしてみたものの、おとうさんは、おかみさんにせがんで内緒で一本…もう一本だけ…もう半分…しまいにゃァ、持ってこォいッ…べろべろに酔っ払ったところへ息子が帰って来た。こりゃ大変!おとうさん、しゃきっとして見せて…ところが息子もへべれけで戻ってきた。「やっぱりこれで好きなものは、やめようと思っても、なかなかやまりませんねェおとうさん」「馬鹿野郎!けれど、この 身代をお前にそっくりゆずっていこうと思えばこそ、おとうさんは口うるさく言うんですから…」と愛情を見せながらサゲへ。桃家のり曰く「酔っ払いの雰囲気の出し方、親子の酔っ払いの違いを出すのが難しいが、さらりとした中に親子の対話がおもしろい」と。
CDなら五代目柳家小さん名演集(九)ポニーキャニオンPCCG-00055(他に饅頭こわい・うなぎ屋所収) などでお楽しみください。

間違い:

気がかりで、不安な状態(事)。事故やけんかなどよくないこと。酒で間違いを起こしたOBが何人いることやら…

身代:

一家・個人の全財産。資産。