さ行

 

ざっぱい
雑俳

ご隠居さんのところへ八五郎がやって来て…という落語での代表的なシチュエーションの咄(はなし)です。
八五郎が、ご隠居さんに俳句を教わり、即座にくだらない俳句を連発して、笑わせてくれます。
「初雪や」など、句の上の五文字に対して、中の七文字、下の五文字を付けて一句にまとめる遊びは、 元禄時代から行われたとか。

演者にとっても、いろいろと手を加えて遊ぶことができるので、楽しい咄です。
國落では、現 元翁の 七代目三優亭右勝 が演じ、落ちで 横井庄一を登場させたことで話題になりました。
(もう時代を感じさせますが。)

大喜利でも、「やりくり川柳」というお遊びをすることがあります。
最初に回答者が下の五文字を言っておき、言い終えたところで、客席から上の五文字を言ってもらい、回答者は中の七文字を考えてまとめた出来を競うというものです。
学祭などにお越しの節は、大喜利もお楽しみに、どうぞ。

「雑俳」を聞いてみたい方。現在、一般に単品で入手可能なものは、CDならNHK落語名人選36 三代目三遊亭金馬(他に「堪忍袋」「一目上がり」「小言念佛」を収録)があります。
どうぞお楽しみください。

元禄時代:

大体300年くらい前です。
犬公方(いぬくぼう)で有名な江戸時代5代将軍の徳川綱吉の時代です。

元翁:

「がんおう」と読みます。昔は「元治ー(がんじー)」といいましたが、
OBになってこの名前に変えて、あちこちで落語をやられています。

横井庄一:

敗戦を知らずに戦後27年目にしてグァム島で発見された元軍曹。
「恥ずかしながら帰ってまいりました」のフレーズがネタに。のち国会議員にも当選。

大喜利:

テレビの笑点でおなじみの、しゃれやとんちで言葉遊びをするという出し物です。

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十徳

よくできた噺だなあと思います。パターン的には「つる」などと同様、隠居さんから聞いた話を八つァん、熊さんが、よそで話して失敗するという、たわいもないものですが、言葉遊びが実にきれいなもんです。

十徳は、室町時代に下級武士が着た脇を縫った素襖(すおう)のことで、江戸時代には腰から下にひだをつけ医者・儒者・絵師などの礼服となったそうです。絽(ろ)や紗(しゃ)などを用い、色は黒に限り、裕福な隠居なども着たとか。

あるとき隠居が十徳を着て歩いていたのを見かけ、あれは何て着物だろうと仲間に聞かれて、知らねえと言うのは癪(しゃく)にさわるので、「知ってるとも、あれは…帷子(かたびら)のねんねこだ」と言って笑わ れた主人公。くやしくて、隠居のところへ聞きに来て、ついでに謂(いわ)れ=由来を聞いてみる。

困った隠居は

「ま、無理に理屈をつければだな、この十徳をわしが着るだろう…立ったところを見るてえと、この通り襞(ひだ)がついている。で、この…衣のごとくだ。坐(すわ)ったところは、ぱっと広がって、羽織のごとくだ。ごとく、ごとくで十徳だい。」

と。こいつは面白いと、自分を笑った連中に自慢して話して聞かせようとするんですが、

「立ったところを見れば、衣のようだ。坐ったところは、羽織のようだようだ、ようだで…やァだ。いや、待ってくれ。衣みてえだ。羽織みてえだ。みてえ、みてえで…」

と、こんな調子で落ちへ。

市販では、コロンビアのCD全集「談志ひとり会第一期」が単品化され、(7)COCJ-32937に収録(他に西鶴一代記・夢金・山号寺号)されています。國落では任天堂芸夢がやっとりましたか。軽くて味わいのある噺、落研学生も是非、語り継いでほしいもんです。

     十 徳

「じっとく」と読む。「じゅう」がカ・サ・タ・ハ行の音で始まる時は「じっ」となる。
モーゼの十戒(じっかい)、五十歩百歩(ごじっぽひゃっぽ)など「じゅっ」と國學院生なら読まないようにしたい。

     素襖

直垂(ひたたれ)の一種。

    絽 ・紗

すきまを作った、からみ織りの一種。

     帷子

夏用の麻布で作られた、ひとえの着物。

ね ん ね こ

ねんねこ半纏(ばんてん)の略。幼児を背負った上から羽織る広袖の綿入れ半纏(はんてん)。

    ごとく

文語助動詞「ごとし」の連用形。…のようだ。問答などではお馴染みの表現。
「一枚でもセンべいとはこれいかに?」「一個でもマンじゅうと言うがごとし」って。

任天堂芸夢

初代。第二十七代幹部。真打昇進後も同名。

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松竹梅

と言っても、お酒じゃあ~ありません。登場人物の名前なんです。
お店の婚礼に出入りの職人松五郎・竹三郎・梅吉が招かれる。三人は 頭文字の松竹梅 をもじった趣向ご祝儀 を町内のご隠居さんから教わり、宴席で披露するが、なんと梅さんが…まあ、やり損なうという粗忽を描いた小品です。
そんな梅さんが愛らしくて好きと言う凛堂すずが、高座稽古を終えて言うことには、「明るく・はっきりと・大きな声でという基本をがんばろうと思いました。」と。 そうです、梅さんはちょいと稽古をおろそかにしたために…初心忘るべからずですね。

さて、この落語で、ご隠居さんは婚礼での 忌み言葉 なんてぇのも教えてくれます。「帰る」と言ってはいけないよ、「お開き」と言うんだとか(これがサゲに関連します)。

ところで、ご隠居さんから三人が教わる余興の「なったぁーなったぁージャに なった!当家の婿殿、ジャになった!」「なにジャになぁられた?」のフレーズ 。
実は私、落語を知る前の小学生の時分に聞いて知っておりました。昭和44 年放映の「ひみつのアッコちゃん」に出てくる落語好きの小学生(おまけに、 いつも着物を着てます。妙な設定だね、どうも。さすが原作者赤塚不二夫 先生!)のガンモという子が、いつもくちずさんで登場。当時はまだ何のこと やらと?まさかこの落語が原典だったとは…。これと並んで脇で印象的なの が「見ぃちゃったぁ、見ぃちゃったぁ」の情報屋のチカ子。見たい方はこちら のURLのキャラクター紹介(平成版ですが)へ。
http://www.toei-anim.co.jp/tv/akko/
ちなみに私は初回作のエンディング曲、水森亜土が歌った「すきすきソング」 が好きでした。「はーあーあああっ納豆ぉーぃ」って、これを聞くには朝日 ソノラマじゃないと…いや、もとい!落語のほうはCDならNHK落語名人選62 四代目三遊亭円遊(他に「湯屋番」「堀の内」を収録)POCN-1102などで お楽しみください。


松竹梅:

三つとも寒さに耐えるところから、漢籍には「歳寒の三友」と呼んで愛で称され、日本では、めでたいものとして慶事に使われる。頭文字をとったと言うと余談だが、「魔法使いサリー」に出てくる、よっちゃんの三つ子の弟は   、トン吉・チン平・カン太で「トンチンカン」だった…このエンディングの「いたずらの歌」も楽しい…今回は注も本文も余談ばっか(^^ゞ

おたな
お店:

商家の奉公人や出入りの商人・職人などが、その商家を呼ぶ語   。


趣向:

物事を実行したり作ったりする上の・おもしろいアイデア。


祝儀:

祝いのあいさつ。


忌み言葉:

縁起をかついで使うのを避ける言葉。

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崇徳院

百人一首をモチーフにした落語というのもいくつかあるもんです。
「瀬を早み岩にせかるる滝川のわれても末にあはむとぞ思ふ」
作者は 保元の乱に敗れて讃岐(さぬき)に流され、そこで亡くなった悲運の崇徳院(すとくいん)。

ある大店(おおだな)の若旦那が寝込んでしまった。医者によると「なにか思いつめているようだ」と。心配した大旦那が聞き出そうとするが、どうしても若旦那は口を割らない。とどのつまり、熊さんになら話をしてもよいというので、熊さんが聞き出したところ、ある日、出会ったお嬢さん風の人に恋煩いだという。そこで熊さん、そのお嬢さんを捜す羽目に。手がかりは、若旦那がその折お嬢さんから渡された崇徳院の歌が書かれた短冊。熊さんは「瀬を早み~」と唱えながら方々を捜し回るという…

この和歌の意味は「川の流れが速いので岩にせき止められた急流が二つに分かれても、後に再び合流するように、私たちもいったんは別れてもいつかきっと会おうと思う」という、どんな障害があっても恋を貫こうとする強い意志が読み取れるもの。落ちも、この和歌をつかった「拍子落ち」「途端落ち」といったところ。
CDならNHK落語名人選14三代目桂三木助(他に、へっつい幽霊を収録)POCN-1014などでお楽しみください。

保元の乱:

1156(保元元)年、崇徳上皇・後白河天皇兄弟、関白藤原忠通・弟頼長の対立がからみ、上皇が源為義らの武力をたのんで天皇方に挑戦敗北した。院政の混乱と武士の進出を示す事件。(『日本史用語集』山川出版社から)
兄弟・同族が敵味方に分かれて戦った悲劇としても語られるが、根はもっと深いところにも存在するらしい。崇徳天皇の父は鳥羽天皇で、母は待賢門院璋子であるとされているが、『古事談』によると、実は曾祖父白河上皇と璋子とが密通して生まれた子であったという。鳥羽帝はこのことを知って、「叔父子」と呼んで崇徳院を避け、父子の対立を生んだ。崇徳天皇は鳥羽法皇によって退位させられ上皇になっても院政を行えなかったうえに、自分の皇統も疎外されるという境遇に陥ったのだという。なんかドロドロ…

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せんりょうみかん
 千両みかん

ある大店(おおだな)の若旦那が「 みかんが食べたい」と寝込んでしまった。そんなことなら、すぐに買ってきましょうと安請け合いをした番頭。大喜びの若旦那。が、しかし、今は夏、どこにも売っているわけがない。これは迂闊だった。「がっかりして伜(せがれ)が死んだらお前のせいだ。 主殺しといって訴えてやる。主殺しは死罪だ」と大旦那にも言われて、番頭は江戸中を探し回る。
そしてやっと「私のところも代々続いたみかん問屋、いつどんなときでも、“ありません”、“切らしています”とは言えませんから」と蔵を開けて捜してくれる店があった。とはいえ、やはり真夏のこと。いまのように冷凍など保存の術(すべ)があるわけでなし。どれもこれも腐っている。そんな中にたった一つだけ、まだ腐らずに…この一個の値段が千両だという。番頭びっくり。
帰って旦那に相談してみると「そうだろうねえ、安いね」と、あっさり。若旦那も千両のみかんですと聞いても驚きもしないばかりか、ただただ、おいしそうに食べて、「番頭さん、ここに三袋残った。両親に一つずつ。もう一つは番頭さんに」と。十袋あったから一袋百両の勘定になる…番頭、いま手の中に三百両の重みを感じて…

なかなかに難しい噺かもしれません。まず季節感がなくなったと言われる現代に演じることの難しさ。そしてサゲまでどう説得力をもたせるかという難しさでしょうか。

CDならTEICHIKUの「志の輔らくご 両耳のやけど2(他に宿屋の仇討を収録)」TECR-20182などでお楽しみください。

蜜柑:

念のため~ミカン科の常緑小高木。あたたかい地方につくられる。初夏、白色の小さな五弁花をつけ、初冬、黄色に熟した水分の多いあまずっぱい実がなる。季語としては冬、花は夏。

迂闊(うかつ):

注意が足りないようす。うっかりしたようす。

主殺し(しゅうごろし):

主人または主君を殺すこと。また、殺した者。江戸時代では、親殺し以上に凶悪な大罪とされた。

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粗忽長屋

柳家小さん師匠の得意ネタで、その演出法の芸談などが、とうとうと述べられているものなどを目にすることもありますが、とにかく落語らしいというか、落語の醍醐味(だいごみ)というか、また 「粗忽」という言葉でまとめてしまう、まあ、いろんな意味ですごい噺だなあ~と。
浅草の観音様の境内(けいだい)で 行き倒れがあった。身許(みもと)がわからず困っていると、これを見かけた八公が、「これァ熊の野郎だ」と言い出す。ところが熊公には身寄りたよりもなければ引き取り手もない。すると八公、「じゃァ、こうしましょう。ともかく、当人ここィ連れて来ましょう」と言い出す。
さっそく長屋に帰って、熊公に「お前が死んでるから早く付いて来い」と告げると、熊公もそそっかしいもんで話してるうちに納得して二人で熊公?の死骸を引き取りに再び 浅草寺へ。こうなると、なんだかもうわけがわかりません。そんな馬鹿な!ってとこでしょうが、落語のほうは噺がトントンとテンポよく運んで楽しませてくれます。
まあ実際にCDならポニーキャニオン「五代目柳家小さん名演集5(他に短命・強情灸を収録)」PCCG-00051などでお楽しみください。

そこつ
粗忽:

そそっかしい様子


行き倒れ:

病気・寒さ・飢えなどのため、道ばたで倒れたり死んだりすること。
江戸時代には行き倒れがあると現場の町が面倒を見る掟であった。引き取り手があればよいが、
身許不明では埋葬するにも費用は町の負担であるからたいへんな迷惑であったようだ。

せんそうじ
浅草寺:

東京都台東区にある聖観音(しょうかんのん)宗の総本山。
山号は金竜山。話中に出てくる「馬道」は浅草観音東横、吉原(よしわら。「なか」と称す
ことも)方面へ通じる道。「夜明かし」という終夜営業している飲食店の屋台も出ていたようだ。

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そこつのくぎ
 粗忽の釘

ある粗忽者が引っ越しをすることに。ところが、引っ越し先を忘れて迷ってしまう始末。やっと引っ越し先にたどり着くと、先に着いていた(って、着けるのが普通だが)女房に箒を掛ける釘を打ってくれと言われる。が、大変なことに壁に釘を打ってしまった!長屋の壁というのは薄いもの。そこへ特大の 瓦釘を打ってしまったいう。さあ、隣家へ謝りに行って来いと女房に言われるが、さすがは粗忽者、お向こうの家に行ってしまう。気を取り直して落ち着いてやろうと、隣の家に行ったものの、今度は落ち着きすぎて何しに来たか忘れてしまう。(「粗忽」って「そそっかしい」という意味だそうですが、こうなるともお何と言ってよいやら、それとも「粗忽」という言葉がもつ意味が深いのか?)やっと釘の一件を伝えて確かめてみると、なんとお隣の仏壇の中あたりに釘のとっ先が出たらしい。中の 阿弥陀様の運命は・・・ 市販のものでは、ポリドールNHK落語名人選70五代目柳家小さん(他に船徳を収録)POCN-1110などでお楽しみください。

瓦釘:

普通の平瓦を止める釘は短いが、この噺では、丸瓦などを固定させるために使う特別に長い(15~20センチ)釘のようだ。

阿弥陀:

仏教で、西方の極楽浄土にいて、すべての人を救う誓いを立てているほとけ。浄土宗・真宗では本尊とし念仏(「なむあみだぶつ」。「なんまいだ」はその音変化「なんまいだぶつ」の略)による極楽往生を説く。ちなみに「あみだクジ」というのは、阿弥陀仏の功徳(くどく)が平等であるからとも、もとクジの図形が放射線状で阿弥陀仏の後光に似ているからとも。