は行

化け物使い

御家人らしき隠居、この人が猛烈に人使いが荒い。いくら 奉公人が来ても、すぐに 音を上げてやめてしまう。そんな隠居のもとで、へこたれずに、よく働いて三年いついた男がいた。しかし、この男も、隠居が化け物屋敷という噂(うわさ)のある空き家に引っ越すというのを機に、 ひまをくれという。

家の広さに引きかえて格安だから隠居は越したのが、噂どおりに出た!一つ目小僧…

ところが隠居は驚きもこわがりもせず、呼び寄せてこき使う。翌日は 大入道。これまたこき使われて…次の日も…やがて出てきたのは狸で、涙ぐんで…

真打に昇進した 入船亭扇辰師匠が、國學院大學落語研究会創立45周年記念落語会(於浅草木馬亭)で演じてくれました。CDならポリドールNHK落語名人選59三代目桂三木助(他に、さんま火事を収録)POCN-1099などでお楽しみください。

御家人(ごけにん):

〔徳川幕府の直参(じきさん)で〕お目見え以下のさむらい。

奉公人(ほうこうにん):

飯炊き・薪割り・庭掃除。使い走り、その他雑用をする役で、落語では「権助奉公」などと、俗に権助といった人物が出てくる。他に杢助(もくすけ)とか本名または仮につけた名を呼んだ人物も。権助はなにも信州人にかぎった訳ではないが、江戸時代には『お信濃(しな)』などと侮称されていたが、鈍重ながら我慢強くよく働いたので、雇主の受けは他国人よりよかったという。 “信州強情・信州辛抱”などという言葉もその辺の事情をよく伝えている。

音(ね)を上げる:

よわねをはく。

暇(ひま):

主従・夫婦などの関係を絶つこと。「暇を出す」は使用人などをやめさせるの意。「暇を取る」は使用人のほうからやめる、暇をもらう。

大入道(おおにゅうどう):

ずばぬけて大きい男(の姿の化け物)。

入船亭扇辰:

第27代幹部。六代目若木家志楽。新潟の出身と聞き「シベリヤが近いで。知ってるゥ」とかなんとか地理的なことから歴史的なこと(~抑留~)からなにやらウンチクを述べまくる往復亭びん太(第23代)により入部当初シベリ家翌柳と命名され、のち万年堂亀頭(第22代)からはプテラノドン(~翼竜だから~)と呼ばれたなどの記憶だが? 1989年九代目入船亭扇橋に入門、2002年春真打に昇進。

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花見の仇討

桜の季節。ただ花見をしても面白くも何んともないから、見てる連中が 割れ返る ような趣向をしようと考えた四人組。花見の趣向という仮装をそれぞれが昔はよくやってたんだそうで。敵(かたき)を捜す 巡礼(じゅんれい) 兄弟に、討たれる浪人者、仲に入る 六十六部 と、仇討(あだうち)の筋書きを決めて、さっそく稽古。そして衣装もそろえて、翌日、 飛鳥山へ。ところが六十六部役が間の悪いことに伯父さんに出くわしてしまう。あいにくこの伯父さん耳が遠い。「そんなかっこうで、どこへ行くんだ」「ハナミのシュコウだよ」「なに!相模から四国へ行く?とんでもない野郎だ」と、つかまっちまう。そうとは知らぬ巡礼兄弟役と浪人役は、 「やあ珍しや、汝(なんじ)は○○○○よな、○年以前国許(くにもと)においてわが父を討って立ち退(の)きし大悪人、汝に巡り逢(あ)わん、其の為に、長の年月(としつき)、兄弟の艱難(かんなん)心労如何(いか)ばかり。ここで逢(お)うたは盲亀(もッき)の浮木(ふぼく)優曇華(うどんげ)の、花待ち得たる今日の対面、いざ立ちあがって、親の仇敵(かたき)だ尋常に、勝負、勝負(しょおォぶ)」 と、 割り科目(ぜりふ) で始めてみたものの、そこへ「巡礼兄弟に助太刀(すけだち)を致す」と本物の侍が。さあて浪人役はたまらない!果たして…梅毒蝮秘三太夫曰く、「芝居の部分が見せ場。花見のにぎやかな雰囲気が出せれば」と。 CDならポリドールのNHK落語名人選 68金原亭馬生(他に、たがや収録) POCN-1108 などでお楽しみください。

割れ返る:

大さわぎのようすをあらわすときに使う。

巡礼:

聖地や霊場を巡拝する旅によって、信仰を深め、特別の恩寵(おんちょう)にあずかろうとすること。また、その人。

六十六部:

笈櫃(おいびつ)に経典六十六部を入れ、日本六十余州の国分寺へ詣で、一部ずつ納めて修行する行脚(あんぎゃ)僧。この筋書きでは背負(しょ)っている笈櫃を開けると中には酒、肴、三味線、太鼓が入っていて、大一座になって、飲めや歌えのドンチャン騒ぎといく予定だった。

飛鳥山(あすかやま):

東京都北区南部にある台地。江戸時代からの桜の名所。

割り科白:

一つの科白(せりふ)を、二人または三人以上で分けて述べること。

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はんたいぐるま
 反対俥

昭和生まれの四天王と呼ばれて期待された落語家に立川談志、三遊亭圓楽、古今亭志ん朝、月の家円鏡。この円鏡が橘家圓蔵を襲名する前後によく聞かれ、おもしろかったなあと印象の強い噺です。

乗ったはいいが、ほかの俥(くるま)にどんどん抜かれていくような、まぬけな俥に乗ってしまった不運な客が、ほかの俥を捜していると、いたっ!「おゥッ、俥屋ァ、おめえ早いかァ?」「なにをォ?……早(はえ)えかァ?まぬけめェ、 一瀉千里虎の子走(ばし)り、“ 韋駄天”の熊ッてなおれの事(こ)ッたァ。おれァな、 梶棒、プップッ、こう持ってな、あァッ、あァッ、ラァラァラァラァラァラァラィッ、どいたどいたどいたどいたどいたどいたどいたァ…い」早いのなんの。ところが川ぶちに来て、 芸者と出くわして…

ものすごく体力を使う噺で、ビクター『愛蔵版 爆笑!! 円鏡メモリアル』円鏡自身による演目解説によると「疲れた時演(や)ります。疲れた時ダラダラした噺を演ってるとダメです。疲れた時は、疲れる噺をすると、手を抜くわけにいかないですからガンガン演っていきます。」と。

「明治から大正の初期にかけて、大変にこの人力車ッてな流行(はや)りましてねェ。~略~ 赤いゲットゥにくるまって居眠りしてるからそそかっしいやつァね、はがきィほうり込んだりなんかしてねェ。」と、噺に入っていくんですが、「あれは伸治兄さん(現桂文治)が演っていたんです。三平さんも演っていた。でもあれは古い、もう。だからわざと時代をつけるために言う場合もあるんです。もう赤ゲットなんて言葉はね。そうかといって、毛布にくるまって…というとダメなわけなんで、でも『赤ゲットと郵便ポストと間違えて』といっても、まあ一〇〇人中五人ぐらいしか知らないんじゃないかな。うけないんじゃないかな。でもまあ、ちょっと時代をね。ああそう、明治時代なのかな?とかね。」とも。

CDならポリドールNHK落語名人選77十代目桂文治(他に道具屋、浮世床を収録) POCN-1117などでお楽しみくさだい。

一瀉千里(いっしゃせんり):

気がかりで、不安な状態(事)。事故やけんかなどよくないこと。酒で間違いを起こしたOBが何人いることやら…

韋駄天(いだてん):

仏舎利を奪って逃げた鬼を追いかけて捕らえ、また僧の急難を走って行って救ったと言われる神。足が速い人のたとえにされる。

梶棒(かじぼう):

人力車・荷車などを引くための長い柄。

芸者:

料亭・旅館などに呼ばれ、時間ぎめで酒席に出てお酌をしながら客の話し相手になったり注文によって歌や踊りで座興を添えたりする女性。もう本物はなかなかお目にかかれませんし、宴席に呼んで遊興することを「芸者をあげる」といってサゲに関係しますが、金がかかるんでしょうねえ。

赤ゲット:

ゲットはブランケット(毛布)の略。明治時代、赤い毛布をはおって都会見物に来たことから田舎者のことや慣れない洋行者をも指すようになったと。

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不精床

不精な奴というのをもっともよくあらわした小噺というのが先代春風亭柳橋師の十八番にあって、どんなのかってえと、
「どうだい、これだけ不精な奴が集まったんだから、ひとつ不精会ってのを作ろうじゃあねえか」…「面倒くせえから、止そう」
これでおしまいという…。

ifシリーズなら、「もしも床屋が不精だったら」といったところでしょうか、客が来ても「いらっしゃい」とも言わない。世辞も言わない。客が「ちょいといい男にしてもらいたいんだけど」と言えば、「そりゃあ無理だ。お前さん鏡見たことあんのかい」といった始末。 月代を剃る前に客に自分で湿せと言うし、湿しに使おうとした水瓶(みずがめ)には、 ボウフラが湧(わ)いているし。
やっとやってもらえるかと思えば、「オイ、小僧(やっこ)、鍋のケツばかりでガリガリやってたって腕はあがらねえよ。久しぶりに客が来たんだから、生身の頭ぁやってみろ」だって。小僧の稽古台になった客は災難。「小僧さん、そぉっとでいいんだよ。痛いよ、ちょっと痛い。痛い!」それを見ていた親方が「バカヤロウ、客が三度、痛いって言ったら止めろって教えてあるだろう」と、やっと親方が替わってやってくれると思えば、小僧に向かって小言を始める。それも剃刀(かみそり)を振り回しながら。この客の災難はまだまだ続く~。

ということで、CDならCOLUMBIA「志らくのピン」(他に親子酒・出来心などを収録)COCAー14805などでお楽しみください。まあ、これは不精というより、わけのわからない床屋ということになってますが、不精なのか乱暴なのか、そのへんを一応演者としてはわきまえて演出していけば味付けもかわってくるんでしょうか。

さかやき
月代:

中世末期以後、成人男子が前額部から頭上にかけて髪をそり上げたこと。
また、その部分。


ボウフラ:

蚊の幼虫。水中に住み、体は短い棒状で、くねくねと運動し浮き沈みする。
最近は下水がすっかり整備されて水のたまったドブなども少なくなり、見る機会が減ったもんです。蚊はいるのに…。
つまり、まあ、ここではボウフラが湧くということで、水をずっと替えていないってことを表現してるわけで。